磁界方式のワイヤレス給電は、電磁誘導が技術のベースとなっていますが、重要な要素部品の1つがコイルです。形状、インダクタンス、抵抗、使用周波数などを考慮して、コイル設計を進める事になりますが、各要素が絡み合う為、希望形状と性能を両立させる為には、高度なノウハウが必要になります。
磁界方式のワイヤレス給電はコイルへ交流を流すことで磁界の変化を起こしますが、電力伝送効率の良否はどのような要素で決まるのでしょうか。これは、コイル間の結合係数(k)とコイルのQ 値によります。
結合係数 |
電磁誘導では、1次側コイルから発生した磁束が2次側コイルを通過し電力を発生させますが、ワイヤレス給電における、送電側コイルと受電側コイルの結合の度合いを示す指標として結合係数という値が使われています。記号では「k」で表し、絶対値で0~1までの値をとります。結合係数が0の場合、送電コイルから出た磁束が受電コイルへまったく伝わっておらず、結合が取れていない状態です。結合係数が1ですと、漏れ磁束がなく、完全に結合されている状態です。変圧器(トランス)では、結合係数0.99など結合が高い状態で使われますが、ワイヤレス給電では、kが0.15程度でも使用されます。
結合係数は、以下の要素により変動します。
-コイル間の距離
-1次コイルと2次コイルの相対的サイズ
-コイルの形状
-コイル間の角度
以下のグラフを見ると、距離や軸ズレが少ない程、結語係数kが高くなっている事が分かります。また、送電コイルと受電コイルで形状やサイズが異なると、結合係数が低下しています。これは、距離やズレ、サイズ違いにより、これは漏れ磁束が多くなる為です。
Q値 |
コイルの品質(Quality Factor)を表す指標です。Q値が高いほど、高周波にとって損失の低いコイルとなります。Q値は、インダクタンスL、抵抗R及び周波数で定義され以下の計算式が用いられます。
Q値は、0から∞の範囲となり、周波数が一定であれば、形状とサイズ、材料で決まります。これらの計算式より、Lや周波数がある程度高くする必要があることや、コイル材質の抵抗を減らすことが重要と分かります。Q値は、現実的には一定の値に収まり、大量生産されるコイルでは、100前後になります。1000を超えるコイルは技術的に困難で、10以下は実用的ではありません。周波数によって、大きく変化し、ある周波数で最大値になります。
共鳴方式では、高Q値のコイルを用いる事で、低い結合係数(コイル間の距離)を補っています。
これらの結合係数(k)及びQ値により、ワイヤレス給電の伝送効率が決まり、k・Qの積が大きいほど効率が良くなると考えられています。
ワイヤレス給電を構成するコイルの特性が非常に重要なことが分かりますが、その中で代表的なパラメータやキーワードについて説明します。これら各要素が絡み合う為、各性質を理解した上、コイル設計を進める必要があります。
誘導係数とも言い、同じ電流値であれば、インダクタンスが大きい方が誘導起電力が大きくなります。H(ヘンリー)という単位を使います。コイルの巻き数と形状で決まり、同じ形状であれば、コイルの巻き数の2乗に比例します。インダクタンスはフェライトコアや周囲金属によっても変動します。
以下の表は実際に5種類のコイルで実測したインダクタンス値です。コイルの径が大きい程、また巻数が多い程、インダクタンス値が大きくなっているのがわかります。
コイルは直流電流をスムーズに通しますが、交流電流に対しては抵抗のように作用します。これを誘導性リアクタンスと言います。電流と磁気の関係で、電流が大きくなると、逆向きの電流を発生させる磁界が発生し、逆に電流が小さくなると、それを大きくする方向に磁界が発生します。誘導性リアクタンスは、周波数に比例して、大きくなります。
電気容量の事で、コンデンサーなど絶縁された導体において電荷をどのくらい蓄えられるかを示す量の事です。C(ファラド)という単位を使います。コイル自身も微小ですがキャパシタンスを持っています。
キャパシタンスが交流回路において、電流の流れを妨げる働きを容量性リアクタンスと言います。誘導性リアクタンスとは逆の性質があり、周波数に反比例します。
コイル(L)とコンデンサー(C)で構成された回路で、誘導性と容量性のリアクタンスが等しいときに共振現象が発生します。共振現象が発生すると、コイルを経由して、コンデンサの電極間を電荷が行ったり来たりします。実際には内部抵抗により、エネルギーは減衰していきます。共振が発生する周波数は、計算式で算出する事が可能です。ラジオでは、特定の周波数に合わせる事で、その局の搬送周波数に共振させています。
共振は、コンデンサー(C)の接続位置により、直列共振と並列共振があり、それぞれ特性があります。
共振周波数(fr)で、回路を流れる電流(i)が最大となります。インピーダンスは最小となります。
共振周波数(fr)で、回路を流れる電流(i)が最小となります。インピーダンスは最大となります。
コイル自身のキャパシタンスとインダクタンスによって共振が生じる周波数です。誘導性リアクタンスは、周波数が高くなるほど、大きくなりますが、逆に容量性リアクタンスは、低くなります。この2つのパラメーター(インピーダンス)のバランスが取れた周波数を共振周波数と言い、インピーダンスが最大になります。自己共振周波数を超えると、コンデンサとしての機能が支配的になり、コイルとしては機能しなくなります。
表皮効果とは、導線をつかって交流を流す時、周波数が高いほど、導線の表面しか流れなくなる現象です。その為、ワイヤレス給電では、この対策としてリッツ線(撚線)を使い、効率よく電流を流す事が多いです。
また、近接効果とは、平行する導線同士が発する磁場によって電流密度にムラが出来て、抵抗があがり、減衰しやすくなる現象です。
インダクタを構成する導体へ直流を流した時の抵抗値です。導線が長いほど、抵抗は大きくなります。断面積が大きい程、抵抗は小さくなります。
抵抗値(R)は、材質によって決まる電気抵抗率(p)、物体の長さ(ℓ)、断面積(A)により、左記計算式で求める事が出来ます。
ワイヤレス給電は、電力伝送に電磁波を用いる為、電磁両立性を確立する必要があります。強力な電磁波は、無線機器や電子機器への干渉のみならず、人体への影響を及ぼす可能性が考えられます。
国内では、ワイヤレス給電は、電波法の規制を受けます。電波法上、周波数が10kHz上かつ50Wの出力を超える場合、高周波利用設備として、所管の通信局へ個別の設置届け出が必要になります。(電波法100条第2項、電波法施行規則第45条3項)
また、国際非電離放射防護委員会(ICNIRP)では、電波放射に対するガイドラインを示しています。このガイドラインでは、使用周波数ごとの電磁放射の規定数値が定められていいます。
過去にビーアンドプラスの製品で測定をした参考値では、ガイドライン値に対して、10kHz~30MH帯域では830分の1、30MHz~1GHz帯域では860,000分の1でした。
各メーカーは、ワイヤレス給電の性能と同時にこれらの電磁両立性を確立できるよう評価検証や対策に努めているのです。